皆さんは、「勝負」という言葉を聞くと、どんなことを思い浮かべるでしょうか?
学生の頃、私は「勝負」というのは限られた何かを取り合うもので、はっきりと白黒のつく分かり易いものだと思っていました。
でも、実際に社会に出て働いてみると、どうやら勝つという事はそんな単純なものでもなさそうだと思うようになりました。
勝負は長期戦
倒産したり自ら会社を畳まない限り、会社には終わりというものがありません。だから一度負けたってそれで終わりじゃないし、一度勝ったからといって勝ち逃げすることもできません。数十年、時には百年を超える長い間、会社は存続し続け「勝負」の世界に身を置くのです。
それだけの長い間、一つの会社がずっと勝ち続けることはできません。全試合勝って優勝したプロ野球チームがないように、長期間ずっと勝ち続けることはできません。また、100%の勝率を求めることは投資という観点からも効率的ではありません。なぜなら、全て勝とうとすると極端に大きな投資が必要となるからです。
目指すは勝率アップ
目指すべきは、少しでも勝つ確率を上げていくことです。そして、その努力を継続していくことです。プロ野球でも7割勝てば優勝が見えてきますし、8割勝てば誰も敵わないのです。2割も負けているのに、無敵だといわれるのです。
そう考えるとちょっとほっとしますか?それとも、これで良しという終わりもないわけで、ちょっと気が遠くなってしまいますでしょうか?
「結果」と「プロセス」の両方にこだわる
勝負には、最終的にうまくいったかどうかという「結果」と、そこに至るまでの「プロセス」があります。ボクシングでいうと、勝ち負けという結果と、どんな戦いをしてきたのかというプロセスに当たります。
長い間にわたってより多くの戦いをリングで続けようと思うと、毎回殴り合いの試合を続けていくわけにはいきません。長く、そしてたくさん勝っていくためには、できるだけ殴られない方が良いのです。
会社にしても同様です。長期間にわたって多くの勝利をおさめている会社というのは、体力を消耗し切ってしまうような殴り合いを、自ら望んで仕掛けていくことはほとんどありません。
最上の策は「相手を味方にすること」
相手に殴られないようにする最上の策は、相手を味方にすることです。味方は殴ってきません。
これは何もしないということではありません。これまでにない商品やサービスを価値を提供し、その業界の価値を上げること。これが最上の策だと思います。
ヘアケアの事例
髪に使うコンディショナーやトリートメントを例に挙げてみましょう。私が子供の頃は、洗髪にはシャンプーしか使っていませんでした。でも今は、当たり前のようにコンディショナーを使うし、特に女性の方でトリートメントを使っているという人も多いでしょう。
消費者にとっては髪がより綺麗になるという便益が嬉しいですし、お店にとっても新しい収入源になります。それまでシャンプーで競争してきた相手にとっても、新しいマーケットの創造は大歓迎です。みんなが喜ぶから、敵もできにくいし、負けにくいのです。
次善の策として「相手をジレンマに追い込む」
次善の策としては、相手をジレンマに追い込んで、戦えないようにすることです。相手が戦ってこなければ、殴られることもありません。
薄型テレビの事例
相手を戦わせないということであれば、出てきた当初の薄型テレビがその事例にあたります。
競争相手がブラウン管に強みを持っている場合、その競争相手は薄型テレビを積極的に売ることはできません。なぜなら、彼らにとってそれは自分の強みであるブラウン管テレビの収益にダメージを与える、いわば共食いのような状態を引き起こすからです。
そこにジレンマがあるのです。
その他の事例
同様のことは、固定電話から携帯電話への移行にジレンマを持ち続けたNTT、歯磨き粉が売れなくなると困るのでヘッドの小さな歯ブラシをなかなか発売できなかったサンスターなどにもいえます。
要は、相手のジレンマの中に踏み込んでいくということです。ただし、これは競争相手を味方につけるわけではないので、次善の策だと言えます。
その次にようやく「勝てる勝負をする」という選択
「相手と自分の強みや弱みを比較して、勝てる確率の高い勝負を挑んでいく」という戦略をよく耳にしますが、これはその次にようやく出てくる選択肢です。
勝てるかもしれませんが、相当のダメージを覚悟しなければなりません。最後までリングに立っていられるかもしれませんが、血みどろにもなります。
そんな勝負は、他にやりようがない時に、しょうがなく、しかも乾坤一擲の思いでやるものです。
ましてや、その市場が魅力的だからといって、明確な強みもないのにむやみに飛び込んでいったり、コストの優位性もないのに価格競争を選択することは、もはや長期的な戦略とは言えません。
勝つための努力を積み重ね続ける
一生懸命、頭に汗をかいて、少しでも勝つ確率を上げるために、あきらめずに考え続けること。
勝つということは、この途方もない積み重ねの先にはじめて見えてくるものなのだと思います。
これは、日本企業であろうと、外国企業であろうと、変わらない普遍的なことです。
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